KURONEKO'S room

いらっしゃいませ。

ここはクロネコの小説です☆

6話

 
― 月村(V) ― 


「今日は今から何する?」

「今から?ん〜ご飯終わって洗濯物たたんだり、あっ!そうそう、こないだ整理しかけで終わっちゃった本棚の整理しなくちゃ。」

「そっかぁ・・・。じゃあ忙しいんだね。」

「どうしたの?ネオンちゃん。何かしたい事でもあったの?」

笑顔で言うネオンに、アルリドさんは申し訳なさそうにそう言った。


「ん〜ん。別にそういうわけじゃないよっ!

 何するのかなぁって思って聞いてみただけ〜♪」

「そぉ?ゴメンね。」



ネオンの様子から何か察したようで、アルリドさんはまた、申し訳なさそうな顔をした。

「違うよ、私も今日は家に帰ってしなきゃいけないことあるから忙しいの。」

相変わらずの笑顔でネオンはそう言った。

 そうしている内にだいぶ時間が経ってしまっていることに気づいたネオンは、アルリドさんにまた明日勉強を教えてもらう約束をして、自分の家へと向かった。

 家へ帰る途中、食後の団欒中なのか、にぎやかな声の聞こえるマークさんたち夫婦の家の前を通り、丁度ほろ酔い気分になってきた頃合いとでもいったような楽しげなドンチャン騒ぎや、シットリと飲むのが好きな人たちがお互いの事を話す、落ち着いた話し声などが聞こえてくる飲み会場の前を通り過ぎ、ネオンは自分の家へと向かって小高い丘を登っていた。

「はぁ・・・。」

ネオンは段々と見えてきた家を見て、毎度の習慣のようになってしまった溜め息を一つついた。村人が家族のように接してくれてはいても、電気のついていない、誰も自分の帰りを待ってくれている人などいないと分かっている家に帰るのは辛い。

身寄りのないネオンを引き取って育ててもよいと言ってくれる村人もいるのだが、ネオンはそれを断り続けてきた。普通の子供ならば大人たちの言葉に従っていたのかもしれないが、ネオンは月村の村人たちがそんな金銭的な余裕を持ってはいないということを誰よりもよく知っていた。自分をも養うということが、彼らの生活の中の何かしらの楽しみを我慢させなくてはならなくなるということを。

 

 ネオンは家の戸を開け、気だるい体を何とか引きずりながら電気も付けずに階段を上った。一人で住むのには広すぎる家の二階の寝室に入り、そこにドカリと横たわる大きすぎるベッドを通り過ぎ、部屋にポツリと備え付けられた梯子へとたどり着
くと、梯子を上って真っ白な天井に不釣合いな蝶番のつまみを回した。

そうして、手のひらを天井に付いて少し力を入れると、その部分が開き、人が一人入れるくらいの四角い穴ができた。

見上げればその四画い穴から見えるのは闇だった。ネオンには、真っ白な天井にただただ黒いそれが追い込まれているかのように見えて、何だか息が詰まるような感じがした。そこから早く抜け出したくてネオンは、目をかたく閉じて勢い良くその真っ黒な闇へと頭を突き出した。

 

その瞬間、体にキレイな空気がスーっと入り込んでくるような清涼感にネオンは空気を体いっぱいに深く吸い込んで、ゆっくりと浅く吐き、かたく閉じていた瞼をやんわりと開いた。虚ろに開かれたネオンの目には、さっきまでの息の詰まるような景色はなく、開かれた、どこまでも続く闇空を溶け込むように照らす大きな月が映っていた。

 そして、ネオンはこの日もいつものようにお気に入りの場所に座った。大人たちは飲んだり騒いだり、忙しく用事があったりするし、暇なら近くにいる人とお喋りをしたり、テレビを見たり本を読んだりする。だから、真っ暗に広がる空をただぼんやりと眺めてみるなんて事めったにない。

なので、誰にも気付かれることのないこの場所はネオンにとって心の休まる秘密の場所となっているのだった。そうして、ネオンは少し肌寒くなってきた空気を感じながら月を眺めていたのだった

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