5話
−いざないU−
さぁ傍観者様、ここまでのご様子お分かりになりましたか?
おや?私の事をお忘れではないでしょうね。
最初にお会いしました、あなたをいざなっている者ですよ。
いきなり何だ、とでもいうようなお顔をしてはいらっしゃいませんか。
あなたは傍観者だと申し上げたでしょうに。故、あなたは多くのことを見る必要があるのです。
そこで・・・
これは昔、『月村』という村自体がまだ存在していなかった頃のお話。
「金・・・ねぇな。おい、あんたらもそんなとこだろ?」
「あぁ、この通りさ。」
そう言って男は黒くて小さな皮の財布を逆さにして見せた。
「まったく、住むとこさえあればなぁ。あんたも、べっぴんな奥さんと、そんな小さな子供がいるんなら大変だろうに。」
「そうでもないさ。
俺らは金なんてなくても人生の楽しみ方を知ってる。」
両眉と目を上げて、冗談っぽく、しかし真剣にそう男は言った。奥さんも、それを見て笑っていた。落ち着いた雰囲気のその奥さんはそれまで黙って二人の男の会話を聞いていたが、初めてフフフッと笑った。
旦那の方は、明るくひょうきんそうな印象だ。黒のTシャツにジーンズ、片目の瞼には大きな傷があって開かないようだが、そんな事は気にならない程に本当に楽しそうに笑うのだった。
「あんたら、気持ちの良い奴らだな!」
「気持ちの良いやつらって、それじゃあ海賊船にでも乗っていそう な口ぶりみたいじゃないか〜。」
『海賊船』という言葉に一瞬固まった男の態度に、ひょうきんそうなその男は目敏く気付いた・・・が、
「君も面白い奴だね〜。」
などと、全く態度にも言葉にも出すことはなかった。
―俺のこの反応じゃバレてんじゃねぇのかっ!?何でこいつ、何も言ってこねぇんだ??―
動揺してしまった男はそう思った。
そう、この男は海賊船の一味をしていたのだ。今は一味の間でいざこざが起き、解散してしまったために、これからどの海賊団に入るかを考えながらブラブラしている内に持っていた金が底をついてしまっていたのだ。
この時代、海だけでなく陸でも海賊が幅を利かせていたのだ。そのため、いらぬ乱闘は頻繁にあったし、海賊に反感を持っている人間がほとんどだったのだ。
海賊の一味は素性を明かしては一人で街を歩くことができない。逆に言えば、負けないという自信のある海賊は公表して周り、力の誇示をする機会にもなるのだ。
そんな御時世に、バカがつくほど真っ正直な反応をしてしまったこの海賊の男は混乱していた。
―ありえねぇ。俺ぁ海賊だぜ・・・理不尽に人を傷つけてきたこ とだってごまんとあるんだ―
「君ってホント面白いな〜」
「お前ら、分かってんのか?!
もし・・・もし、俺が海賊だったらどうすんだよ・・・。」
海賊のその男は複雑な心境だった。子供の頃から跳ねっ返り扱いをされ、親からも友達からも倦厭されていた。本当は普通に友達だって欲しかったし、親にも甘えたかったのに、それが許されない環境にいた。
それが、会って間もないこの家族はどうだ。何の偏見も持たずに話をしてくれているではないか。しかし、それでも海賊の男は信用しきれないでいた。
シャリンッ
男は腰に携えていた剣を抜いた。
「クソッ・・・!」
この時ばかりは、その海賊の男の手は震えていた。
「人を・・・。」
「??」
「人を信用するのって難しいよね。」
「!?」
「人は信用しては裏切られる事で、信用する事を怖れるようになる。
そうやってシールドばかりを張っていると、本当の好意に気付けなくなってしまうんじゃないかな。」
「人を信じるのは簡単なようでいて難しい。
けど、それで気付かずに拒否してしまったら後悔すらできない
じゃないか。
それって、もったいな〜いって俺は思う♪」
そう言ってまた、その家族は笑った。
その笑顔は、やっぱり楽しそうで
海賊の男にはとても眩しくて、目がチカチカして涙が目に溜まるほど
眩しかった。
「こんちくしょーぉおお!!!気持ちの良い奴らだなぁあ!!」
「こんちくしょ〜ぉおお♪♪♪面白い奴だなぁ〜♪」
「フフフッ」
そう言って笑いあった、後にそこら一帯に『月村』と呼ばれる小さな村ができた。
彼らとは・・・
今では渋顔のマークさんと、グロリス一家であった。
・ ・・さぁ、それでは傍観者様、元の話へと
再びいざなうとしましょうか
参りましょう お供いたします