KURONEKO'S room

いらっしゃいませ。

ここはクロネコの小説です☆

4話

 

― 月村(U) ―




また、月村には洒落たバーなどはもちろんなかったが、大人たちが各々の酒を持ち寄り各々の酒を飲む、飲み会場というものはあった。ネオン以外には大人から老人までしかいないこの村にとって、“各々の持ってきた酒を飲む”というルールの元ではあるが、このような場所は気晴らしにはもってこいなのだ。また、この飲み会場が昼間には、ゆっくりしたい、とにかく話したい、などという人々のお茶会場と化していることは言うまでもない。

 

ネオンはこれらの会にはあまり参加しない。飲み会場では、もちろん酒は飲まないが、みんなの話を聞くのはとてもおもしろいし、楽しい・・・のだが、ネオンは気付いてしまったのだ。酔っ払いが同じ事を繰り返し話したがる事や、酔っ払うと急に怒り出したり、泣き出したり、笑い出したりする人がいるということに。一度、ネオンはたっぷりと酔っ払ったマーカスさんに捕まってしまった。

マーカスさんは顔もなかなかの男前で、気前もいいのだが、未だ独り者である。マーカスさんはネオンに自分の恋愛講義を長々と、ネオンが覚えているだけで7回は「俺のあの恋の始まりは彼女が窓の外で洗濯物を干していた時に、向かいのアパートに住んでいた俺と目が合ったことから・・・。」と繰り返し同じ話をし、その彼女が浮気をしたと言っては怒り出し、その彼女に振られた話になった時には、泣き出してしまったのだ。この時ばかりはネオンも困り果て、なぐさめてみれば、ケロッと元気になったマーカスさんに最後まで散々に付き合わされたのだった。

 

そんな事があったのも原因の一つだったが、ネオンは何より、夜には屋根の上のお気に入りの場所で一人、月を眺めて何の気なしに歌を口ずさんだりしている方が好きだったのだ。

 

 

 

それだけ月を眺め続けていたネオンは学んだことがある。月には満ち欠けがあり、若干のずれはもちもんあるが、おおまかに言えば、1日の新月から始まり、7日の上弦の月、15日の満月、23日の下弦の月、そしてまた1日の新月へとなり、月の年齢のようなもの、すなわち月齢は27周期だ。ネオンはどんな形の月も好きだったが、とりわけ満月の夜は何だか心がワクワクするような、それでいて逆に落ち着くような、不思議な気分になることが多かった。

ネオンは最近、その不思議な気持ちを月村に住む、アルリドお姉さんに相談したことがあった。アルリドさんは温和で優しい、笑顔のかわいらしい人で、ネオンはアルリドさんによく勉強をみてもらったり、一緒にクッキーを焼いたりしていた。ネオンにとっては本当の姉同然のような感覚であり、ネオンは何かあるとすぐにアルリドさんに話していた。

そして、満月の夜の不思議な気持ちのことを話すと、アルリドさんは

 

「昔からね、月には不思議な力があるって信じられているのよ。

それで、その不思議な力は満月の時に強まるって言われているわ。満月の日には赤ちゃんを産むお母さんが増えるとか、色々言われているのよ。お姉ちゃんも月を見ていると神秘的な気持ちになったりするもの。」

 

と、ネオンを安心させるように優しい笑顔を浮かべながら言った。

 

「ちなみに私は三日月が一番好きかなっ!」

 

と、いきなり言い出したアルリドさんを見ると、アルリドさんは窓から顔を出して空を見ていた。今夜の空に浮かんでいるのは、一面真っ暗な闇空にアクセントのように一つ。青白い光と、その存在感を煌々と放つ見事に円を描いた満月だった。

 

「そう。私、アルリドさんには満月のイメージがあったけど。」

 

ネオンは少し意外そうな顔をしながら、笑みを浮かべそう言った。

 

「私ね、三日月のあのカーブした所に座って足をブラブラさせたら気持ち良さそうだなぁって見るたびに思うの!だから私は三日月が好きなの。」

 

いたずらっぽい表情で、アルリドさんはネオンの頭をポンポンと軽く叩いて言った。ネオンはしばらくキョトンとしていたが、クスリと笑って頷いた。

 

 

 そして、ネオンはその夜アルリドさんの家で晩御飯を食べることになった。今日の献立はハンバーグのようで、ネオンはアルリドさんの育てたタマネギを畑から取ってきて手伝いをした。ネオンも一人で暮らしているため、料理の腕はなかなかのようだ。慣れた様子でタマネギを細かく刻んでいき、調味料などを用意していたアルリドさんの手にしているフライパンに入れた。そうしているうちに、あっという間にハンバーグは完成した。

 そして、アルリドさんが皿の用意をしていると、隣の家のモーリスおばさんが鍋を手に抱えてやってきた。

 

「アルリドや、ネオンもいるって聞いたからトマトスープ持って来たよ。

余っちまったらもったいないから、お食べ。」

 

そう言うモーリスおばさんに二人でお礼を言い、今日あったことなど他愛のないことを話しながら食事をした。

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