KURONEKO'S room

いらっしゃいませ。

ここはクロネコの小説です☆

3話

 

― 月村 ―




ネオンの住む月村には、街に住んでいくことのできるだけのお金のない人々が、お互いに助け合いながら暮らしている。

そのため、色とりどりに鮮やかな服、フリルの付いた可愛らしいワンピースや、紳士的なブラックスーツにワイルドなシャツやジーンズなどを置いてある、お洒落な洋服店や、若者からお年寄りまで幅広い世代に愛されるようなオシャレで落ち着いた雰囲気のカフェ。また、液晶テレビや薄型パソコン、様々な家庭用電化製品、流行の音楽やゲームまで売っているような便利な電気屋。

 

そんなモノは一切ない。それが月村である。

 

唯一ある店といえば、バイエルさんの営む本屋くらいだろう。バイエルさんは一風変わった雰囲気のおばあさんだ。それでは先が見えないのではというほど黒く、小さな丸いレンズのついたサングラスをかけている。それなのにバイエルさんの目はそのレンズとは対照的に大きいものだから、いつも小さな黒いレンズから、目の端が覗いているのだった。腰は90度に近いほど曲がっているため、小さく見える。口数は少ないが、探している本をすぐに探して持ってきてくれるため、なかなか店は繁盛しているようだ。

彼女は一人で本屋を経営しているのだが、何といってもその本の多さには目を見張るものがある。子供向けの絵本から、知識のある大人でも読解不可能な難書まで様々な本をぎっしりと抱え込んだ月村唯一の店なのだ。

しかし、本の量のわりにはこぢんまりとした井出達なので、立ち入った大人たちは背を屈めていなければならない。バイエルさんの腰が曲がったのは、あの本屋の狭さの中で、背をいつも屈めていたせいだ。あの本屋を月村で始めてから腰が少しずつ曲がり始めた。などと、村人から噂されるほどだった。

ネオンはバイエルさんのことが少し苦手だった。元々知識を得ることには意欲的であったため本を読むことには好きだったのだが、バイエルさんの変わったデザインのサングラス独特の雰囲気がネオンに苦手意識を植え付けていたのだ。

 

ネオンは幼い頃から黒いサングラスが苦手で、まだ今より小さい時に、サングラスをかけたマークおじさんがネオンをあやそうと抱き上げたと同時に腕の中で暴れだし、急に暴れだしたネオンに驚いたマークおじさんはネオンを落としてしまい、怪我をさせてしまったのだ。怪我といっても大したことはなく、せいぜいコブができて泣き出してしまった程度だったのだが、それが原因でマークおじさんはサングラスをかけるのを止めてしまった。と、いう話をキャシーさんから聞いたことがある。

キャシーさんは、掴めば折れてしまうのではと思うほど痩せていて、浅黒い肌にケバケバしいピンクやグリーンのアイシャドウが印象的な、マークおじさんの奥さんだ。キャシーさんはその話をする時には決まって、

 

「マークほどサングラスの似合う渋顔はいなかったのに。もったいないわぁ〜。」

 

と、ぼやくので、ネオンは苦笑いせずにはいられなかった。

 

 

そして、店ならぬ“仮店舗”が一軒ある。街は地価が高いため、今現在は街に店を建てることのままならない人が、この月村を探し出して“仮店舗”を作ったらしい。

“仮店舗”といっても、一人の月村の住民が引っ越していった後に残った、古い小さな小屋といってもいいような家に少しだけ看板という名の装飾を施した程度だ。しかし、その紫色に黒のペイントで[MJ]と書かれた唯一の装飾が月村にはあまり馴染みの無い物ゆえになのか、自分の興味のない事にはあまり気にとめない性格のネオンをも含め、村人たちの関心を惹いていた。

 

噂によると、『何でも屋』らしい。実は、この仮店舗には何人かの人が出入りしているようなのだが、村人たちとはあまり顔を会わせる機会がないために詳しい事は分からないのだ。大人の村人たちによると『何でも屋』とは、その名の通り何でもする、様々な種類に渡って依頼を請け負う仕事のことで、蜂の巣の駆除であったり、カラスに荒らされた大量のゴミの片付けであったり、身寄りのない亡くなった人の部屋の撤去であったりと、人の嫌がるような厄介な仕事であったりもするようだ。

最も、この月村の村民たちは人の嫌がるような事でも自分たちでこなしていかなくては生活していくことができないため、月村には依頼者となる人がいない。そのため、この仮店舗に出入りする人たちは、月村を仮拠点地として街や別の地域に仕事に出かけていかなくてはならない。だから顔を会わせる機会もないのだろうと、大人たちは言っていた。

月村的な考え方で言えば「このご時世に何でも屋ねぇ・・・。」という少々批判めいた意見が多いのだが、顔を会わせることがないところを見ると、どうやら仕事はあるようだ。月村ではあり得ない事だが、どこかの経済的に豊かな人が依頼でもしているのだろう。

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