2話
―そこは、暗い暗い場所でした―
「暗いなぁ。」
そう、ここは『暗い』としか言いようのない場所である。
しかし、いくら暗いといっても、暗い所にはどこかしら光があるものだ。
そう、ここにも光はあり、それは青白く静かに発光する月だ。
月はどうしてこうも静かなのだろう。辺りの静寂を一層深めているようだ。
ここにも、そんな月に魅せられた少女がいた。彼女の名はネオン・グロリス。言わずもがな、『暗いなぁ。』の主である。それにしても、おかしな事もあるものだ。青白く光る月が照らしているものは、か細い12〜13歳程であろう少女ただ一人だけなのだから。
彼女は手探りで辺りの様子を窺っていたが、暗いために見えないのではなく、辺りには何も存在しないのだと判断したようでホッとした様子で座り込んだ。
しかし、実際にはホッとしていられるような状況ではないのだ。暗闇に静寂、彼女以外には青白く不気味に彼女を照らし続ける月しか存在しない。これだけの条件を突きつけられて尚、ホッとしていられる人間はそうはいないだろう。
ネオンはまた、相方を眺めた。青白い光をいつまでも深々と彼女に浴びせるその相方は、冷たいようでいて、どこか暖かいような感覚をネオンに感じさせていた。ネオンはそんな月が好きだった。そのため、月の出た夜には、家の屋根の彼女のお気に入りの場所に座って歌を口ずさんだりしながら、いつまでも月を眺めていた。
ネオンの家は街から6キロ程度離れた、小高い丘の上にあった。他にも民家はあったが、ネオンぐらいの年頃の子供はいなかった。それは、この地域に住む人々が、地価や物価の高い街に住むことのできない人々であるということを示唆していた。
しかし、そんな人々が集まったことで、その地域は小さな集落のようになっており、自給自足に物々交換など、細々とではあるが生活していける程になっていた。そのため、近所付き合いは深く、よそから来た人から見れば親戚の集まりか何かかと思うほどであった。
ネオンは物心ついて数年たった頃に両親を事故で亡くした。そんなネオンを育てたのがここの村人たちであった。ネオンにとっては村人たちみんなが家族であり、村人たちもネオンを娘のように思っていた。
この村の朝は、いつも
― おはよう!ネオン、今日も元気だね。―
― ネオン、朝飯一緒に食ってかねぇか?―
― ネオンちゃん、後で遊びに寄ってちょうだいよ。―
― 怪我だけはすんなよ!―
と、いった暖かい声に包まれていた。
この村は、月がキレイに見えることから、
『月村』
と呼ばれるようになっていった。