16話
知っているけど知らないW
突然耳を塞ぎたくなるような叫び声をあげたアルリドさんに驚いたネオンはアルリドさんの隣へと駆け寄った。
「大丈夫?!しっかりして!!」
「い・・・イヤぁー!!!!こ、来ないで!!
誰かっ!誰か助けてー!!!!」
いつも穏やかなアルリドさんは、いつものその様子が想像できないほどに必死な顔で、ネオンを見ながらそう叫んだ。
ネオンは何がなんだか分からず呆然としてしまった。ただ、ネオンはぼんやりとした思考の中、いつもとは全く違う表情をしている目の前のアルリドさんを
―知らない人みたい―
と、思いながら虚ろな目をして眺めていた。それはこの現状があたかも、夢の世界であるかのような感覚だった。イヤに客観的に自分と自分の目の前にあるものを見ている、そんな感覚だ。
夢なら早く覚めれば良いのにと、頭では考えながらも、その場から逃げようとも動こうともしない体は、まるでまだその場に留まっていたいとでも言うようだった。そして、何か話せばこの現状は変わるのかと思いながらも、それがいたく面倒な事に思えて何も言いたくないのだ。
―でも、何だか・・・―
― 悪くない ―
ぼんやりと、そう思っている時だった。
「・・・!!!・・!・!!」
「・・!」
「・・・〜!!・・・」
うるっさいなぁと思った瞬間、ネオンは現実へと引き戻された。
周りを見渡すと、そこにはすでに月村中の人間が集まってきていた。未だ突っ立っているネオンと、しりもちをつきながら後ろへと懸命に下がろうとする必死の様子のアルリドさんをグルリと取り囲み、手には松明の火や斧に鍬、こん棒を手に振り上げていた。
さっきまでガーゴーとイビキをかいて寝ていたはずのマークさんまでもが、ネオンの目の前で斧を構えていた。
「な・・に。み・ん・・な?
そな・・・こ・・怖・い かお・・」
「こいつ、ネオンの名を騙りやがってっ!!」
「ネオンちゃんは?ネオンちゃんは大丈夫かしら?!」
「そうだ、ネオンは!?」
―何を言っているの?私なら、ここにいるじゃない―
ガヤガヤと村人の焦ったような声に包まれながらネオンは思った。
と、アルリドさんとネオンを囲んでいた村人達は急に静かになり、囲いの一部分を空けて皆そちらの方を見ていた。
第一声を上げたのはアルリドさんだった。
「ネオンっ!!」
―なぁに?―
名前を呼ばれたネオンは、いつもの優しそうな声に喜びが織り交ざったアルリドさんの声に喜んで振り返った。