10話
−消えかけ−
ネオンは今、この瞬間、最も望んでいる答えを待っていた。
“本物ではない”
―早くそう答えてよ。だって、私のことなんてチラリとも気が付かないし!
そうだ、そうだよ!私ったら作り物相手にこんな驚かされちゃって何やってるんだろう。本物のはずないじゃない!―
冷静になってきているせいなのか、自分に言い聞かせているせいなのか、ネオンは次第に絶対にこれは本物ではない、と自信を持ち出した。すると、ロドルス・グレーズと名乗る男が答えた。
「・・・本物ではない。」
ネオンは、待ち望んでいたその返事に全身の力が抜け落ちていくのを感じた。
そして、自身の体が冷え切ってしまっているのに気付き、こんな作り物相手にどれほど自分は驚いて恐怖してしまっていたのだろうと、急にすべてが恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じた。ネオンは何とかこの場を取り繕おうと、
「や、やっぱりそうですよね。」
と、何でもなかったような素振りを心掛けながら言った。ネオンにはもう恐怖はなく、残っているのは自身の反応に対する羞恥だけであった。
そう、ネオンはすでに元々自分の身に何が起こってこのような場所に来ているのかを忘れていたのだった。
「・・・この世界のモノではないという点においては、確かにそやつは本物ではないな。」
その言葉はネオンには大きすぎる影響力を持っていた。
それはネオンを
絶望の淵へと
導くほどに。
そして、しばらくの沈黙の後ネオンの周りには以前にも増した緊張感が、針でも刺したら今にも爆発してしまいそうなくらいに張りつめていた。最初の時とは違った緊張感であり、それはロドルス・グレーズの
“・・・この世界のモノではないという点においては、確かにそやつは本物ではないな。”
と、いう大したことではないとでも言うような一声によるものであるという事は間違いない。
未だロドルス・グレーズの容姿、表情は窺い知ることはできずにいるが、その声と喋り方からは知的なものが伝わってくる。しかし、ネオンには印象などというものはこの際どうでもよかった。
「どうなってんの!?ここはどこだ。この人に何をした!? 死・・・んでるの?お前がやったんだ!人殺し!!」
ネオンは焦りと恐怖で形振り構わず立て続けにそう怒鳴り、まくし立てた。一方的に言うだけ言い終えたネオンは、ぜえぜえと肩で息をし、一見怒りで興奮しているようにも見えるが、手足は恐怖でガタガタと震えていた。
「・・・フンッ。」
その様子を見て、ロドルス・グレーズは鼻で笑った。焦りと恐怖で自分を見失い、一方的に自分の気持ちをわめく事しかできないでいる哀れな子供に向かって侮蔑の視線を送りながら。